相続税の節税は二の次にする選択
3年前からサポートしている田中さん(仮名)がされた選択について、
ご紹介させて頂きます。
※当該ブログの内容は実際にあった話をベースにしていますが、プライバシーの観点から、
家族構成や背景を入れ替えています。
今年80歳を迎える田中さんからの相談が始まったのは3年前のこと、
一人娘のお嬢さんと、相談に一緒にお越しになりました。
「相続税の心配がありまして、どうすれば節税できるか教えて欲しいと思いまして、、、」
というものでした。
話を伺えば田中さんはご先祖代々の90坪の実家に住んでおられます。
公務員を勤めあげて、金融資産は5000万円ほど、
土地の路線価評価は5400万円ほどですから、
ざっくり1億円の資産をお持ちの状況です。
1億円資産を奥様とお嬢様が法定相続割合で相続する
場合の相続税額は385万円です。
385万円!大きな金額ですから少し節税したいのは
当たり前ですよね。
税額を落とすためには、評価を落とせば良いのですが、
王道的手法として、<小規模宅地の特例>を活用する
という方法があります。
ざっくり言うと、同居している家族が住み続ける家なら、
土地の評価は80%削減しますよ。
というものです。
奥様が土地を相続すれば、土地の評価は80%削減されて
1,080万になります。
金融資産と土地の評価を足すと6,080万円となりました。
6,080万円の資産を奥様とお嬢様の二人で相続する場合
相続税額は94万円となり、291万円もの相続税節税となります。
いいアイデアでしょうか!?
表面的な税額だけを見ると、
魅力的なのですが、田中さんはこの道を選びませんでした。
どうしてか?
奥様にどうも認知症の気配があり、うすうす気づいてはいたものの
胡麻化しながら暮らしていたのです。
奥様は田中さんより7歳年下、認知機能は
怪しいのですが、体はぴんぴん元気です。
男性の平均寿命は81歳、女性の平均寿命は87歳
平均という単純な思考で考えると、田中さんは1年後に亡くなり、
奥様はその後13年間をご主人不在で過ごすことになります。
そして、田中さんの奥さんは認知症?を疑われる。
その状態で、奥様が90坪のご実家を相続したらどうなるでしょう?
1人で暮らすことはできるでしょうか?
普通に考えると無理ですよね。
(実際は無理矢理に暮らしている方もいるのですが、
本当はそうならないように準備が必要なのだと思います)
ご主人が万一の際は、老人ホームなどの施設を考えておく、
そのためにどの財源を誰が使えるようにしておくのか、
お母さんの名義に置いておくのか、
お嬢様が持つべきなのか、
はたまた家族信託を組成してお嬢様が使えるようにしておくのか、
法定後見を視野にいれておくのか、
様々な選択肢が考えられます。
ご実家マイホームについても、奥様が相続をすれば節税には成功しますが、
その後の暮らしはどうなるでしょう?
奥様が認知症になれば、不動産の売却はできなくなります。
老人ホームに入所したのちは、90坪の実家は空き家にならざるをえません。
13年間の奥様の人生、
固定資産税の支払いが必要です。
台風で屋根瓦が飛んだ場合はどうしましょう?
空家を空き巣に狙われたらどうしましょう?
・・・と小規模宅地の特例を活用して、節税には成功したが、
その後の暮らしは心配の種が増えてしまった・・・
ということになりかねないのです。
そこで田中さんは遺言書内で不動産は
お嬢様に相続をさせて、小規模宅地の特例を使っての節税策は
選ばない道を選ぶことにしました。
上記は話をかなり単純化したものです。
実際の相談現場では、残された奥様の暮らしを守ったうえで
節税の方法も様々に「ああでもない、こうでもない」と模索しました。
家族信託の活用、
相続後の空き家の3000万円特別控除、
マイホーム売却の3000万円控除、
使える可能性が残るケースと残らないケース。
節税だけに焦点を当ててしまうと、
その後の暮らしが見えなくなってしまいますから、
全体像を描いてから、ツールがどのタイミングで
使える<可能性>があるかを検証します。
どういう未来を描くのか、
将来をどのように暮らしていきたいのか、
ご家族も交えて、じっくり確認してから、どのような
節税策だったら使えるのかを検討を重ねたのです。
その結果、使える節税策としての生命保険は活用したものの、
小規模宅地の特例を活用しての節税は、そのことによる
手間やリスクを考慮して、使わない道を選ぶことにしました。
家族の暮らしに応じて、節税策をとることがリスクになることがあります。
節税ありきではなく、人生計画をまず描くことが大切ではないでしょうか